「いえ……俺は薬屋ですけどね」
「はい?」
国王とギルマスが驚いた表情になり、二人で顔を見合わせていた。納得できないような表情をしていたので簡単に言い訳をした。
「ですから、薬屋で勝手にSSS級の認定証を発行されて、勝手に冒険者にさせられただけですよ」
「そ、そうなのですね……」
国王が何とも言えないような顔をして返事をしてきて、ミリアが自慢げな顔をして国王とギルマスに話し掛けた。その青く透き通った瞳が、誇らしげに輝いている。
「わたしの婚約者は、スゴイお強いのですわよ♪」
「はい。存じ上げております……うちの精鋭の王国兵を三十人を相手に無傷で数分で倒しましたからね……」
国王の言葉に、ギルマスは目を見開いた。
「はい?そんな事があったのですか……それは是非、見たかったですなぁ……」
ギルマスが残念そうな表情で言ってきた。その目は、まるで宝物を見逃したかのように悔しそうだった。
「それと……もう一つ宜しいでしょうか……?」
国王が申し訳無さそうな表情をしながら、言い難そうにしているが、大体は察しがついた。治癒薬のことだろう。
「はい」
「治癒薬の販売を、お願いをしたいのですが……」
やっぱり、そっちの話もか。それなら交渉が得意なミリアと話をしてもらった方が早いし、間違いが無くて良いだろ。うん……面倒だし!
「あぁ……それならミリアに任せてますので」
俺は、この世界の常識を知らないし、交渉が不得意なので、悪いけどミリアに丸投げをすることにした。それに事前にミリアに任せるとお願いもしてあるし。するとその言葉に、王様とギルマスが固まった。
そりゃそうだ。交渉相手が、自分の王国の仕える帝国の皇帝の娘の皇女を相手に、店を出してほしいとお願いというか、交渉をしなくてはいけなくなったので固まるだろう。不成立でも俺は、問題ないし……
「ユウヤ様……相談じゃなかったのですか?」
ミリアの青く透き通った瞳が、わずかに不満げに俺を見つめる。あれ?相談って言ってたっけ……もう婚約者だし助けてくれても良いよね?
「俺より、ミリアの方が交渉が得意そうだしさ」
「……分かりましたわ。ユウヤ様のお役に立てるのでしたら、引き受けますわ。では、それでしたら冒険者ギルドの近くの店舗を用意をして下さい。それと王家の紋章の看板を掲げて頂けますか?それに王国軍の兵士の警護を二人を常駐させて下さい。どうですか?出来ますか?」
ミリアに思いが通じたのか、察していてくれて一応は考えてくれていたのか、国王を相手にスラスラと要望と言う名の指示を伝えてくれた。その言葉には、一切の迷いがなく、交渉というよりは命令に近い響きがあった。
国王は、自分からお願いをしている立場なので、選択肢は一択しかないようだった。ユウヤは、そのことに気づきながらも、ただ黙って事の成り行きを見守る。ミリアが提示した条件は、この世界の常識を知らないユウヤにとっては、無謀なことのようには聞こえなかった。他の王国でも同じ条件で店を出しているのだから、無理難題を言っているわけではないだろう。嫌なら嫌で構わないという、ユウヤの内心の余裕が、その表情からかすかに見て取れる。
「はい。ご用意をさせて頂きます」
国王は、もはや躊躇もせずに即答した。その顔には、一刻も早くこの面倒な交渉を終わらせたいという安堵が浮かんでいる。ユウヤは内心で、やった、と小さくガッツポーズをする。店舗を探す手間も、警備の手配も、交渉も全てミリアがやってくれた。
(さすがミリアだね。俺の面倒な部分を全部引き受けてくれてる)
ユウヤは、隣で凛とした表情を浮かべるミリアを見つめ、感謝の気持ちを抱く。だが、ミリアの追撃は、まだ終わらない。
「下級兵士じゃ困りますからね?」
ミリアは、ユウヤの腕をぎゅっと掴みながら、国王をまっすぐに見つめる。その瞳には、ユウヤを守るという強い意志が宿っていた。
「治癒薬は、狙われやすく警護が貧弱で被害が多発するならば、お店を引き上げます。ユテーリア王国では、大隊長が自ら警護をして頂いてます」
ミリアの言葉に、国王の顔にわずかな汗がにじむ。その顔には、この皇女がどれほど本気で、そしてどれほどユウヤを大切にしているのかを悟ったような、そんな焦りの色が見えた。ギルマスも、ゴクリと唾を飲み込み、真剣な表情で頷いていた。
「わ、分かりました。信用が出来て強い者を手配をいたしますので、ご安心をしてください」
国王は、そう言って、深々と頭を下げた。
「貴族の妨害や邪魔も当然、許しませんからね」
ミリアの鋭い眼光が、国王を射抜く。
「それに関しては王家の紋章を掲げますので、王国の事業を妨害をすれば大罪となりますのでご安心をしてください」
国王は、胸を張って答える。
「不正も勿論許しませんわよ」
ミリアが、今度はギルマスに視線を向ける。ギルマスは、一瞬たじろぎ、すぐに頷いた。
「それは勿論でございます」
「では用意が出来ましたら、わたしの屋敷まで報告をお願いしますわね」
ミリアは、そう言って、国王に優雅に会釈をする。
「かしこまりました」
「緊張して行けなかったんだと思うよ」 俺は、ミリアに説明した。「そうなのですか? いったい……何に緊張しているのでしょうね?」 ミリアは純粋に首を傾げた。彼女の表情は、心底不思議そうだ。青く透き通った瞳には、なぜ娘がそんなに怯え緊張をしているのかという疑問が浮かんでいた。「緊張は、ミリアには分からないと思うけどなぁ……」 俺は、苦笑しながら言った。ミリアは、生まれた時から豪邸や宮殿に住んでいて、父親は最高権力者で、国王よりも権力があって怖い物知らずでしょ。大勢を前にしても平然としてるし……お偉いさんも平民同様の扱いでしょ? それどころか、グラシス国王さえ同様の扱いだったし。彼女の人生には、緊張という感情が入り込む隙がなかったのだろう。「緊張は……この前に初めて知りましたわ……」 ミリアは意外な言葉を口にした。え? ミリアが緊張を覚えたの? スゴイじゃん! ミリアに緊張を与える程の相手がいるの? そんなスゴイ恐い人にでも出会ったのか? 皇帝よりもさらに上の権力者でもいたのか? 俺の頭の中には、たくさんの疑問符が浮かんだ。「え? ホントに? ミリアを緊張させるとかって、そんな凄いヤツがいるんだな?」 俺は、驚きを隠せないで尋ねた。「ええぇ……とても凄いお方ですわ……緊張して震える思いでしたわ……」 ミリアの青く透き通った瞳が、その時のことを思い出しているのか、わずかに揺れる。その声は、感動と畏敬の念に満ちていた。ほぉ……やっぱり人だったのか、スゴイお方……ミリアが敬語を使い震えて褒めるような相手がいるんだな。「へぇ……それは凄いな……俺だったらどうなってたんだろうなぁ……」 俺は、想像力を掻き立てた。ミ
「ユウヤ様……何を……されているのですか?」 ミリアの "青く透き通った瞳" が、少し困惑したように俺を見上げる。その目には、疑問符が浮かんでいた。「ミリアの頬が柔らかくてスベスベで気持ち良いから、触って癒やされてるだけだけど?」 俺は、悪びれる様子もなく答えた。「ううぅ……やめてくださいませ……」 ミリアが頬を赤くして恥ずかしそうな意外な反応をしてきた。ん? ミリアがイチャイチャしてるのを嫌がってる? 嫌がっては無いようだけど……彼女の指先が、俺の腕を軽く叩いた。「え? 何で?」「もう……到着しているのですよね?」 ミリアは、急に焦り出す。その瞳は、屋敷の方向を見つめていた。「うん。15分くらい前にね」「えぇ……それでは屋敷の者が皆、外で待っているのでは?」 ミリアは急に焦り出す。その顔は、真っ青になっていた。 ドアを開けると外でメイドさん達がずらりと並んで待っていたので……ミリアに恥を掛かせる訳にはいかないので、とっさに俺の方が寝てたように眠そうな顔をした。「ふぁぁ~……良く寝た……ミリア待たせちゃったみたいで悪いな~」 俺は、大きなあくびをしてみせた。ミリアが頬を赤くして小声でお礼を言ってきた。「すみません……ありがとうございます。ユウヤ様」「起こさなかった俺も悪いしね……」「その様な事はありません……幸せでした。それに……庇ってもらえるなんて初めてで嬉しいですわっ♡」 ミリアは、 "青く透き通った瞳" を潤ませながら、心から嬉しそうに俺を見つめる。その瞳は、キラキラと輝いていた。そうな
それでも逃げようと機会を伺っていた店主が、出入り口に走ってきた。その目は、まだ諦めていない。コイツには、さらにツライ罰を与えてあげるか……。俺の心に、冷たい決意が宿った。 トゲトゲのウニの様な小さなバリアを膝の関節の間に出現させると、走っていた途中に出現させたので普通に膝を動かしてしまい雷が落ちたような衝撃が、脊髄を駆け上がり強烈な激痛が襲った。そして前に出した足に体重を掛けた瞬間、視界が真っ白に弾け、息すら奪われ気を失う程の激痛が走り、そのまま顔面から転がり激痛で苦しんでいた。顔は土と埃で汚れ、もはや形相と化している。彼の目からは、涙と鼻水が溢れ出ていた。「不法に売られていった子供の苦しみだと思って、そのまま罰を受けててくれ」 俺は冷たい声で言い放った。店主の苦痛に満ちた呻き声が、俺の言葉でさらに大きくなった。「ぎゃぁぁっ!!! クソっ! 何をしやがった!? 痛ぇー!! 許さねぇぞ! クソガキ!! 痛ぇ……クソっ!!」 店主は地面でのたうち回りながら罵声を浴びせる。ウルサイのでもう片方の膝にもバリアを出した。彼の叫び声は、店内に響き渡り、耳障りだった。「はぁ……ウルサイんだけど……黙っててくれる?」 俺がそう告げると、店主の顔がさらに苦痛に歪む。その目には、憎悪と絶望の色が混じっていた。「グゥオー!! 何しやがるんだ! 後で殺してやる! 絶対許さねぇ……」 元気だね……右肘にもバリアを出してみたら痛みで気絶した。店主は全身を痙攣させ、泡を吹いて動かなくなった。その姿は、まるで操り人形の糸が切れたかのようだった。 それを見ていた手下たちが青褪めた顔をし、立ちすくんでいた。彼らの目は、恐怖で大きく見開かれている。その場に張り付いたかのように、身動き一つしなかった。「おい……逃げられると思うか?」 盗賊の一人が震える声で仲間と話す。その声は、絶望に満ちていた。「無理
負傷している兵士に治癒薬を渡して、兵士達に指示を出した。治癒薬は瞬く間に傷を癒やし、兵士たちの顔に驚きと安堵の表情が広がる。彼らの目には、希望の光が宿っていた。「無事な兵士は、負傷してる者を外に運び出して」「はい!」 負傷していない兵士がすぐに動き出す。彼らの動きには、迷いがなかった。「残りの兵士も店から出て逃げる盗賊を捕らえて!」「はい!」 無事な兵士に負傷をしている者を外に引きずり出させ、外には回復をした兵士達が逃げ出してくる者を捕らえる為に店を取り囲んでいた。動きは新兵という訳ではなさそうだった。 店主が、なぜあれだけ堂々と違法なことを堂々と言い、悪びれる様子もなくしていた理由が分かった気がした。この兵士たちを見て確信した。取り締まりの経験がなく店など狭い場所での戦闘経験がない。ということは……この町では、あくどい商売をしても大ごとにならなければ取り締まりをされないってことだ。ここに来た兵士たちは新兵ではなく、動きからしてそこそこの経験を積んだ兵士に見えた。 店には俺と盗賊だけになると店主と、その手下がニヤニヤしだした。彼らは俺を単なる子供と見下しているのがありありと分かる。その顔には、嘲笑と侮蔑の色が浮かんでいた。 (まあ……俺みたいな一人のガキが相手だとそうなるよな……) 俺は、彼らの反応を冷静に分析した。「逃してくれるなら金貨5枚やるぞ? いや、10枚だ! どうだ?」 店主は、いかにも悪党といった顔で、俺を値踏みするように言葉を投げかけてきた。その声には、俺を誘惑しようとする魂胆が見え隠れしていた。 金貨を10枚革製の巾着に金貨を入れて見せてカウンターに置いた。 金貨10枚か……ここなら1年以上くらい遊んで暮らせる金額だな。金貨5枚や3枚とかケチらない辺りが場慣れをしている気がした。初動でケチって兵士が集まってくれば買収する金額が跳ね上がってしまう。初期段階で金貨10枚で逃げられれば安いもんだもんな…&
「なんだ……驚いたぞ、護衛とか言うからよ。それに剣も持っていたが?」 店主は納得して安堵の表情をして、更に疑問に思った事を聞いてくる。警戒が解けたようだ。彼の顔には、疑問が晴れたような清々しさが浮かんでいた。「あれは父親が冒険者で、お金を借りる手続きをするのに剣が邪魔になるから預かっていただけだよ」 俺は、もっともらしい理由を付け加えた。「あぁ……なんだ、そうか……そういう事か」 店主は完全に信じ込んだ様子で頷いた。その顔には、疑念が完全に晴れたような表情が浮かんでいた。そろそろ馬車に着いた頃かな……俺は、内心でそう推測した。♢不正の指摘と兵士の介入 ミリアと兵士が馬車に辿り着いた頃を見計らって、俺は店主に話し掛けた。「えっと……おたくの店って悪質な金貸しですよね?」 俺がそう切り出すと、店主の顔から笑顔が消え、眉間にしわが寄る。その表情は、まるで仮面が剥がれ落ちたかのようだった。「は? なんだ……急に?」 子供のイタズラだと思っているのか、悪い事をしている認識がないのか、もう当たり前となっていて悪事をしているという感覚が麻痺しているのか、素の表情で意味が分からないという顔をしていた。まるで因縁をつけられたという顔をしていて演技だとしたらスゴイな役者になれるんじゃないか? 俺は、彼の表情をじっと観察した。「返済に関して何の説明も無いですし……」 俺は、核心を突く言葉を続けた。「説明だと?」 店主は "ムッとした顔" で聞き返してきた……知らない訳がないと思うけど……説明する義務がある事を知らないで通そうとしているのか? まあ……知らないにしても、忘れていたとしても、どちらにしても違法だ。彼の目には、わずかな動揺の色が浮かんでいた。
軍人さんに不安を抱きつつも任務内容を話した。「貴方の任務は、ミリアの護衛とお金を借りる振りをしてもらう事です。それと、金貸しの不正があった場合の証人ですね。字が読めない人への説明が無く、返済金の合計額を言わないで、借りたお金の本当の返済金額を返済期日を過ぎてから返済しろと言ってくるのも違法ですよね?」 俺が確認すると、軍のお偉いさんを見ると頷いていたので問題は無いようだ。彼の表情は、事態の深刻さを理解したように引き締まっている。「不正の取締だったのですか……」 お偉いさんは、合点がいったように呟いた。「そうですけど?」「でしたら不正があった時の為に、兵士を手配をしておきます」「よろしくお願いします」 俺は深く頭を下げた。兵士の準備も出来て3人で金貸しのある店の近くまで馬車でやってきた。馬車の中は、微かな緊張感とミリアの浮かれた空気が混じり合っている。ミリアは窓の外を眺め、楽しそうに鼻歌を歌っていた。「さ~て……ここからは歩きで向かうよ」 俺は馬車を降りて、2人に声をかけた。「はぁ~い」 ミリアは……なんというかデート気分なのか楽しそうで、足取りも軽やかだった。一方の兵士さんは緊張で一言も話さず、緊張しきっていた。その顔は、まるで堅い岩のようだ。額には、冷や汗が滲んでいた。「はい!」 兵士は相変わらず軍人らしい大きな声で返事をした。「喋り方に気を付けて下さいよ……演技がバレたら終わりですからね?」 俺は、再度釘を刺した。「はい……」 兵士の声はわずかに小さくなった。その声には、反省の色が滲んでいる。「ミリアの名前は?」 俺は、もう一度確認した。「はい……ミーアですよね?」「はい、あってます」 店に入ると、偉そうな店主が自ら対応をしてく